社会の危機への対応:①闘争

資本主義社会の根幹である労働者への搾取に対抗する、「闘う」労働運動の構築:「普通」に生きられる労働社会をつくる

 現在の社会は、正規・非正規の分断、正規労働者の中での階層化の中で、「正社員」をめぐって過酷な競争状態になっています。終身雇用や年功賃金が保障される正社員の雇用は減り(「正社員」の解体)、代わりに使い捨てにされるブラック企業の正社員の増加、雇用の調整弁で不安定な雇用の非正規雇用は37%にも増加しています。非年功型の労働者が増えているのです。結果、長時間労働、低賃金、不安定雇用が蔓延し、結果として結婚や子育てもできない・選択しない労働者層が増えています。労働者が我慢して耐えていても、企業や政府は、何もしてくれません。「闘うしかない」状態といえます。しかし、「正社員」の解体はチャンスです。労働運動は、「正社員」という形で年功賃金として企業からの生活給を求める中で、長時間労働や全国転勤など、「働き方」に関しての自律性を譲り渡してきました(「フォーディズム型労働運動」)。日本はその中で、企業別の労働組合を中心に、正社員のみ組織し、自分たちの年功賃金維持のため、非正規雇用を雇用の調整弁として運用することを止めず、一方で企業の経済成長に率先して協力してきました。その結果が、過労死や性差別的雇用・賃金の維持、脆弱な社会保障なのです。非年功型労働者たちは貧困に陥っています。そして、その層の労働者は、ほとんどが未組織労働者です。企業別の労働組合の力が弱まる中、一方で、この未組織労働者を組織化し、企業横断的で、労働の質を求める新しい、労働市場規制を行う労働運動を作ることのできる可能性が広がっています。非年功型労働者の人たちの権利の実現を掲げた、新しい労働運動を行っていきたいと思います。その中で、下層労働市場への社会政策要求、男女平等賃金、最低賃金の引上げなどを求めていきたいと思います。

社会的少数者への抑圧・排除と闘う

 現在世界中で、人種差別(レイシズム)や性差別(セクシズム)といった社会的少数者(マイノリティ)の排除を訴える思想や実践が、政治空間、メディア、職場、学校、路上、ネットを問わず猛威を奮っています。とりわけ日本では、こうした差別行為に対する規制が事実上機能していないことを背景に、人種・民族的マイノリティ、女性、セクシャルマイノリティにたいする社会的抑圧・排除が無秩序に蔓延しています。

 上で述べた日本型雇用は、社会的マイノリティを排除する差別構造の源泉でもありました。日本型雇用は、日本人・男性・異性愛者の労働者をモデルとした「レイシズム的」かつ「家父長制的」雇用システムです。現在蔓延する差別を内包した社会的通念は、こうした雇用慣行を背景として形成されました。たとえば日本型雇用ののなかで女性は主婦やパートなどの無賃金・低賃金の労働を押し付けられると同時に、男性に奉仕する存在として抑圧され続けてきました。セクシャルマイノリティは異性愛を前提とする社会的通念のもと、絶えず偏見や差別の被害に晒されてきました。そして外国人は、日本型雇用の外側にある低賃金労働力の源であると同時に、日本社会の安定と治安を脅かす「潜在的犯罪者」とみなされ、公的暴力の行使を含む迫害の対象であり続けました。

 社会的マイノリティの排除・迫害は、日本社会がこれまで向き合ってこなかった大きな病巣のひとつです。だれひとり取り残さない社会を作り上げていくためには、社会的マイノリティの人権を擁護し、差別撤廃のための闘いを社会正義の問題として進めていかなければなりません。

差別との闘争は「普通」に生きられる労働社会の構築にとっても必要不可欠である

 また、こうした差別との闘争が必要である理由は、社会的マイノリティの人権を守ることに限定されません。資本主義社会は社会的マイノリティの抑圧・排除を利用して労働者の分断をはかり、利益の源泉とするからです。

 いまや日本には150万人近い外国人が労働者として暮らしています。そして農業・水産業からコンビニでのアルバイトまでが外国人の労働力に大きく依存しており、きわめて多くの産業が外国人労働なしには成立しません。しかしながらこうした現場では時給三百円で働かされる技能実習生に代表されるような低賃金、過労死ラインを超える長時間労働、労災かくし、パワハラ、性暴力などの労働問題・人権侵害が蔓延しています。そしてコロナ禍においては、不要になった労働力として位置づけられた外国人を対象に首切りが横行し、多くの外国人労働者が生存の危機に瀕しています。

 日本人労働者と外国人労働者が分断され、外国人労働者が低賃金・過酷労働の状況に置かれ続けている限りでは、日本人・外国人を問わずすべての労働者の労働条件が改善することはありません。資本が外国人を安く使い潰せる労働力として積極的に使用することによって、日本人労働者と外国人労働者は労働市場において競争状態に置かれます。そして分断された労働者どうしが下方への競争を強いられ続けることで、労働者全体の生存が脅かされるリスクは絶えず上昇しつづけます。

 性差別についても同様のことが言えるでしょう。現在でも、介護、保育、教育などのケアワークの多くは女性が担っています。彼女らは社会に必要な労働を提供しているにもかかわらず、低賃金・過酷労働の状況に置かれており、コロナ禍においてもこうした層がまっさきに被害をこうむっています。このため女性の労働環境の改善なしには、労働者全体の環境改善はままならないでしょう。

 現場での闘争をつうじて差別を撤廃する

 こうした状況を打開するためには、マジョリティの労働者がマイノリティの労働者と連帯し、マイノリティ労働者の待遇改善のために闘争することが必要不可欠です。そして、マジョリティの労働者がマイノリティと連帯するためには、まずもって労働者内部に蔓延する差別の撤廃が必要不可欠です。

 そして、差別の撤廃は「差別撤廃」というスローガンを抽象的に掲げるだけでは実現できません。労働現場をはじめとする社会的空間での権利擁護の闘争をつうじてはじめて差別撤廃は実現されます。そのため私たちは、外国人、女性、セクシャルマイノリティの権利擁護の闘いを現場での被害回復の闘いをつうじて実現します。こうした闘争があってはじめて、マイノリティへの差別撤廃が実現し、すべての労働者が自由かつ平等に生を営むことが可能になるのです。

気候危機と選択を迫られる人類

 地球はかつてない危機に直面しています。気候危機です。人命を奪うほどの豪雨は日本含め世界各地でほぼ毎年発生しており、これは気候変動によるものです。2008年以降毎年平均2,150万人が気候変動の影響で住む場所を失って難民となっています。毎日200種近くの生物が絶滅しています(これは通常の1000から1万倍もの速さである)
 IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)によると、2030年までに世界全体のCO2排出量を45%以上削減できなければ、地球の平均気温は産業革命前と比べて1.5℃以上上昇してしまい、海面上昇、干ばつ、水不足、生物多様性の喪失、食料不足などが壊滅的な規模で引き起こされ、最終的には地球は生物がすむことはできない惑星になってしまうとされています(*1)。ゆえに世界各国は地球の平均気温の上昇をなんとか1.5℃未満に収めようと、対策をとり始めているのです。ちなみに現在は産業革命前と比べ1.1℃上昇しているといわれ、このまま何の対策もとらなければ2030年には温度上昇が1.5℃に達してしまうと言われています。
 この目標を達成するのは並大抵のことではありません。2020年は新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界各国でロックダウンが行われ、経済が大きな規模で縮小しました。その影響で世界のCO2排出は前年に比較して8.8%ほど減少したと言われています。しかし、1.5℃目標を達成するためには日本をはじめとした先進国は2020年から毎年10%以上のCO2排出の削減が求められます。コロナ禍の副作用によると経済の停滞をもってしても、気候変動対策はまだまだ足りない状況です。いかに気候変動への対応が社会のシステムを抜本的に変えることを求めているかが分かるでしょう。

*1:IPCCの特別報告書「Global Warming of 1.5 ºC」を参照:https://www.ipcc.ch/sr15/

日本の気候変動対策はアテにならない

 では気候変動を乗り越えるためにはどのような取り組みが必要でしょうか。一般的に思い浮かぶのは国の政策で気候変動対策をとるというものでしょう。しかし、国の政策による対策で地球を救うことは望み薄です。
 日本をはじめとした先進国は2020年から毎年10%以上のCO2排出の削減が求められることはすでに述べました。そのうえ、日本の温室効果ガス排出量は世界第5位に位置しており、世界190以上ある国の中でも屈指の気候変動への責任を負っており、気候変動対策をどの国よりも推進しなければならない立場です。
 日本の気候変動対策はどのようになっているでしょうか。パリ協定によって各国は温室効果ガスの削減目標(国別対策貢献:NDC)の提出が義務づけられています。日本のNDCは2030年までに温室効果ガス排出量を26%削減(2013年比)するというものです。この日本の出した数値目標は、インド、香港の研究者が英メディア「Climate Home News」に「日本の恥ずべき気候計画は、科学を否定するのに等しい(Japan’s woeful climate plan amounts to science denial)」と題する論考を公表する(*2)ほど、地球を守るためには非現実的なものです。実際、日本は先進国の中で世界唯一新規の石炭火力発電所建設計画を推進しているなど、パリ協定の目標達成と逆行する動きをとっています。国の政策を待っていては取り返しのつかない事態になってしまいます。今、地球を守るために求められているのは、草の根で人々が、真に気候変動に責任を負っている企業に気候変動対策を求めることです。

*2:一般社団法人環境金融研究機構HPを参照:https://rief-jp.org/ct8/101050

企業に責任を取らせる、労働過程における運動が重要

 世界のわずか100社が、排出された全CO2の71%に対して責任があると言われています。このことが示すのは、企業で働いている労働者がその企業の生産のあり方に対して、もっと環境に負荷がない形で行えるように影響を与えれば、大きな気候変動対策になるということです。そのような事例はすでに存在しています。
 海外では気候変動に関連した労働者の直接行動が広がり、一定の成果を出し始めています。アメリカのIT最大手アマゾンの社員によって構成される有志団体”Amazon Employees for Climate Justice( 以下AECJ)は、具体的な気候変動対策を含めたビジネスモデルの改革を要求しています。2019年9月に行われた「グローバル気候ストライキ」には1800人近くのアマゾンの従業員が仕事を引き上げて参加し、これに併せて経営側に出された要求に対して、ベゾスCEOは配達に使用する電気自動車の購入やパリ協定に定められた目標の前倒し実行などの具体的な計画を示しました。「ストライキ」という労働者の行動が、環境問題についての企業の改革を促したのです。
 アマゾン労働者のストライキ以外にも、身近に日本の労働者が求められることがたくさん考えられます。例えば、長時間労働によって生じるCO2は気候変動を推し進めてしまうと言えるでしょう。労働時間の短縮と気候変動対策は密接に結びつきうるのです。また、たとえば、自販機産業における車の運転や廃棄物処理の際に生じるCO2など、労務の削減と気候変動対策も密接に結びつきます。